小噺

虚構を少々

2017/05/11 快晴

「僕の思うところでいう田舎といえば南なので、今日は1日、南下しているような日だった。暑さといえば夏だし、夏といえば南で、日差しといえば海だった。赤虫と言えば田舎で、コンクリートといえば陽炎で、それこそが夏だった。雲の低いのも、分厚い風も、土と葉っぱと海底のような匂いも全部それだった。そして夏は、疲れる。

 

熱線は皮膚を捲るような角度だ。真っ直ぐに差し込んで、僕の項と、七分袖だけ、どうにも助からない。陽炎はまだ息を潜めている。僕は人差し指と親指の肉で水をあけた。こめかみが擽ったい。汗が、た、た、と落ちていく。

 

夏というのはつまり記憶だった。僕の頭の中には、いつも何かの濁流があって、それが、夏の間は夏にすり変わっている。とても重大なことだ。塀を登る蔦植物が瞬く間に積乱雲に喰われていく。その光景は心地よくて、言わば歌だった。ファルセットが脳の後ろを突き抜けていく。無言の僕の耳殻に響くのは、恐ろしい事に女声だった。」