行き摩り

虚構日記

2017/06/05 晴れ

インスタント食品に注ぐ湯はいつも沸かしすぎて少し余る。シンクに捨てると音を立てて金属が歪む。あんなに腹が減っていたのに、口に入れると吐き気がする。僕は水を飲んで、みんな流し込む。固形物が胃の中で暴れ回る。部屋の中は寒くて二の腕に鳥肌が立つ。頭を弄って、不健康な肌に日焼け止めを塗る。痛いのが嫌だ。息を吸えなくなった皮膚が苦しそうにしている。

 

悔しい。生きていることが悔しい。ただ、両足を付いて、僕は枝のように立っている。ここから何も動いていない。なにもない。競わせるなら自分が一番らしい。同じ脳味噌でないと話にならないからだ。食ってきたものも、吸ってきた空気も、みんな違うからだ。持っている毒も、隠している芯も、違う。大事にしたいものも違う。誰も、誰かとは戦えない。僕は誰にも太刀打ちできない。悔しい。僕が太刀打ちしたかった人たちは、一体何を対価に呼吸をしてきたんだろう。何を担保に今まで生きていたのだろう。僕がこんなに惨めなのは、ひょっとして大事な時に対価を、差し出せずに来てしまったからなのだろうか。

 

「俺もお前も、多分一生苦しむよ」

心の頼りにしていた友人の言葉がいつも頭から離れない。

「何かを作り続けている限り。ここは地獄だ」

離れない。

地獄だ。いつも苦しんで、そこには居ない誰かに嫉妬して、悔しがって、いつまでも終わらない、深い場所にいる。あいつはギターを弾くために、重要だった何かを捨ててどこかに弟子入りした。僕は? ここにいる。蜘蛛の糸が、首に引っかかる。顔に纒わり付く。僕は無様に爪を喰い込ませて、皮膚から鬱陶しいものを、とる。引き剥がす。生きるのが嫌だ。死ぬのも、嫌だ。ここは地獄だ。あいつは正しかった。